優しい最後の夏

8 3月

昨年末、安部恭弘さんの25周年記念アルバムが出た。

CD3枚組+DVD1枚セットで、ライブ音源等のレアトラックス付きという豪華仕様である。

和製ジノ・バネリ的なサウンドで、わりとミュージシャン仲間にファンが多かったんだけど、その優しい歌声をCMで聴いた事がある人も多いと思う。

僕は20代の後半にマツダのRX-7というロータリー車に乗っていた。

といっても、RX-7が発売された翌年の1979年の初代型の中古車で、燃費はリッター5キロ前後という、外車なみの恐ろしく不経済な車だった。

白いボディが、なんとなくコンコルドみたいで、リトラクタブルライトといって、ボタンでヘッドライトがせり出すのがかっこ良かった。

その車に楽器(シンセ、キーボード)を積んで、心斎橋にあるスタジオAに足しげく練習に通ったものだ。

運転中にカーステレオで、(その頃はカセットテープだったと思うんだけど、)安部さんの曲を良く聴いた。

今でも安部さんの曲を聴くと、八幡市から京都に向かって国道1号線を走っていた頃や、天の橋立あたりの民宿に泊まりがけで行ったあの夏の田舎道を思い出す。

「優しい最後の夏」は、アルバム「Urban Spilits」収録曲。

夕焼けに染まった須磨海岸か、塩谷にあったウエザー・リポートあたりを走ってる雰囲気かな?

一人で海まで走って、着く頃には日が暮れてしまって、夜の海岸の漁り火を見ながら夏が過ぎていくのを感じている。

きっと、胸にはどこにも行けない、失った恋の想い出を抱いたまま、どうしようもなく佇んでいる自分。

あの頃は、そんななんでもない夏の日が、ただ一度だけのものとは知らなかった。

人生は一度通り過ぎたら戻れないもの。

涙をふいて「日常」と「義務」を背中に、「大人」という切符を買ったあの日から同じ気持ちは二度と訪れない。それはそれでいいんだと思う。

青臭いことを言う前にやらなきゃならない事はいっぱいあるのだから、、、。

それでも、この歌は、忘れたはずの何かを、そっと思い出させてくれる。

2008/03/08