急行電車が二子玉川駅のホームに着いて、僕は夕暮れの多摩川を見渡すホームに降り立った。
少しだけ秋のかおりを乗せた河風が、人々で混み合うホームを通り過ぎていく。
さっき、車内で鳴った携帯電話の着信を確認しながら、1階にある駅の出口へと続くエスカレーターへと歩いていく。
「あ、電話もらったみたいだけど、、、。うん、電車に乗ってたんだ、、、」
1階までの長いエスカレーターに乗りながら、由紀に電話をした。
彼女の用件は、前回のデートの時に話題になった本をこんど会う時に持って来て欲しいという事だった。
「わかった、じゃ、今度持っていくね、ロイス・マクスター・ビジョルド。週末は休みがとれるから、金曜日に電話するよ。その時、どこで会うか決めよう、、、」
由紀と付き合い始めて、もうすぐ3ヶ月になる。
彼女は、いつも、予想もしない時間めがけて電話してくる。
どちらかといえば、電話して欲しい時はいつも、何かしら用事があって、「またあとからかけ直すわ」って言われて、その後、かかってきたためしなんかない。
切った携帯電話をそのまま入り口の自動改札にかざし、駅の外に出る。
世の中、どんどん便利になっていく。
ポケットの中から、イヤホンを出して、携帯電話に接続して、アプリのFMラジオを起動する。
駅前の駐輪場に停めてある自転車に乗って、音楽を聴きながら、多摩川沿いを走るのが大好き。
オンエアされたのは、「菅原沙由理」さんの「好きという言葉」
素敵なバラード曲を聴くと、心がクリーニングされるような気がする。
泣いた後の清々しさにも似た、リフレッシュ感で、もういちど何かに立ち向かおうという気になる。
携帯電話や、世の中、どんどん便利になっていくけど、やっぱりちゃんと言葉で伝えないといけないのかもしれない。
曲を聴きながら、ふと、そんな事を思った。
週末、彼女に会ったら、ちゃんと伝えよう。
2010/8/28
好きという言葉
28
8月