恋文

26 5月

別れはいつも切なく哀しいもの
たとえ恋人でなく、友達でも。

下北沢駅から新代田方向に歩いて5分位のアパートへ、引っ越しの荷造りの手伝いに行った。

今日は天気も良く、日当りの悪いその部屋の窓という窓を開け、暖かい陽気の中でゴミと持っていくものを区別した。

引っ越す本人は結局荷造りが終わるまで、ベットの中で鼾をかきながら眠り続けていた。

一緒に手伝いに来ていたこーやちゃんと、無言で荷物を段ボール箱に詰めていく。

もともとこのアパートはこーやちゃんの親戚の経営するもので、家賃すら滞納を続ける住人であるE(仮名)をほっとく訳にもいかなかった。

Eは、いつの間にか一人では何にも出来なくなってしまった。

だから、彼が眠っている隣で、僕とこーやちゃんは、無言で、故人の荷物を整理するようにいろんな物を段ボール箱に詰め込んでいった。

ベットでこんこんと眠るEは、20代の頃、こーやちゃんや僕がやっていたバンドのリーダーだった。

東京に来てからは、結構有名な音楽雑誌に記事を書いたりもしていた。

Eは、ドラッグによって自分自身の全てを破壊し、そこから生還したあとも、数年後に鬱病を発症し、もうふつうの生活には戻れなくなってしまった。

僕もこーやちゃんもウルトラテンポが早い東京で、仕事や家族、自分自身を生きていくのでやっとで、Eのために出来る事は多くなかった。

これが現実。

ハードだけど、都会の現実。

バツイチで一人暮らしのE、家財道具なんてそんなに無いし、2時間位で片付けは終わった。

「終わったから、俺たち帰るよ」と声をかけると、

「もう帰るのぉー」と寝ぼけた声。

バイバイ、もしかしたら、これが僕達のラストシーン、、、、。

でも、東京にいたらただの浮浪者になっちゃうし、郷里に両親もまだいるんだし。

俺達、もう若くないんだよ。

さよならの時は、なんでこんなに恋の歌が身にしみるのだろうか?

行き着く事の出来なかった未来が眩しい。

「安良城 紅」さんの「恋文」を何度も繰り返して聴く。

ついさっき(午後8時頃)「寝ててごめんね」というEからメールが来た。

こんな変な形の別れもあるもんだね。

これが現実。

哀しいけど、僕は無力で何もかもは守りきれないし、

奇跡も起きなかった。

2007/05/26