青のレクイエム

5 8月

やっと梅雨も開けて、夏らしい暑い日々がやってきた。

どこか遠くへ旅をしたくなってしまう季節。

去年の夏休みは、嫁さんと息子と3人で青春18切符を買って、西日本を巡る旅をした。

といっても、今年から中学に上がった息子は、もっぱら、部活のテニスに熱中していて、「家族旅行とかは、もう卒業したから、お父さんお母さん二人だけで行ってきて!」なんて、生意気な事を言う年頃になってしまった。

去年の夏の暑い日、僕たち家族は、広島を訪れ、原爆ドームの前に立った。

その圧倒的な存在はあまりにも衝撃的で、3人して言葉を失くして、ドーム形の鉄骨のむこうの青い空を見つめるばかりだった。

原爆記念館で様々な写真や人影を残した壁や、広島の上空で原爆が爆発した瞬間の記憶を綴った遺品を見た。

現実の凄まじさと悲惨さ、人間が侵すことの出来るいちばん悪いあやまちは戦争かもしれない。

ああ、絶対に忘れていけない事があるとしたら同じあやまちは二度と犯してはいけないんだと言うこと。

その広島の原爆ドームの前で坂本龍一さんと元ちとせさんが「死んだ女の子」を歌うライブ映像を見た。

それはあまりにも重過ぎて、幾度も幾度も聴くことが出来る歌ではなかった。
むしろ、同じ元ちとせさんの「青のレクイエム」を聴くと、なぜかどうしても広島を連想してしまう。

いくつもの言葉があの朝のあの瞬間に永遠に終わってしまった数多くの物語たちを語っているように思えてしまう。

もうすぐ8月6日が来る。

日暮れ時に原爆ドームをあとにした僕達は、記念公園の隣にある広島球場で広島対中日戦を見た。

元気に応援する満員の広島の人たちを見ながら、おせっかいだろうけれどもよかったよかった広島と思った。

球場のバックホーム側スタンドの通路窓からは、さっきまでいた原爆ドームが見えた。

現代に生きる僕達には何が出来るんだろう?

歌い継ぎ、幾度も語り継ぐ義務があるのかもしれない。

2006/8/05