STARS

19 1月

新宿駅から小田急線に乗って成城学園前駅を過ぎ、

多摩川を渡るちょっと前あたりにその町があった。

各駅停車だけが停まる私鉄沿線のその町の駅で降り、南口からロータリーを経て商店街ぞいに歩いて15分位で、多摩川の堤防に着く。

あたりは、東京都内とはいえ、今でもまだ田園地帯がわずかに残っているのどかな風景が広がっている。

僕はその町で、今から5年前、ちょっとの間だけアルバイトをしていた事がある。

僕が働いていた場所は、堤防に近い、広い敷地を持つ工場で、仕事の内容はといえば、建設現場で使用する大きな照明装置を組み立てる仕事だった。

毎日毎日同じように、作業着を着て、レンチやスパナを持って肉体労働をした。

40歳を超えてからの肉体労働は、結構きつかった。

それでも、妻子ある身として、働かないと家のローンやら何やらと払えなくなってしまう、、、

そんな時期だった。

工場でたったひとつの楽しみといえば、FM放送を聴きながら仕事が出来た事だった。

それは、秋も深まったある日の夕方のこと。

これから発売される新曲だと前置きされ、ある歌がオンエアされた。

その歌を聴いて僕はおもわずスパナを落としそうになった。

なんだこの歌は!

僕の大好きなフェンダーローズ風の、トレモロのかかったエレピのイントロから、少しJazzyなコード進行とアレンジ、音使い、そして完成度の高さ!

チック・コリアとデビット・フォスターとイエスを掛け合わせたようなホーンセクションとストリングスアレンジ、それでいて表に流れるのはとても判りやすいモチーフ!

そんな歌を名前も知らない新人が歌っていた。

この瞬間、邦楽というジャンルが確実に進化したと実感した。

歌の名は「STARS」、歌っているのは「中島美嘉」。

僕はスパナをそっと工具ラックに返し、工場裏の多摩川の堤防まで走った。

夕闇につつまれた川原に、冬の匂いがする風が吹いていた。

風の音の合間に、さっき聴いた歌がずっと響き続けている。

こんなところで肉体労働をしている場合じゃない!

数日後、僕はその工場を辞めた。

2006/01/19