Sowing The Seeds of Love

18 2月

朝目覚めると、はっきりとわかる位の雨音。

窓の外も、いつもの朝より暗い。

ベットから抜け出してリビングの窓のカーテンを開けると、駐車場を隔てて建つマンションも、NHK技研のビルも、水色に霞んでいる。

そんな窓の外の景色を見ながら休日の朝をすごしていると、昔住んでいた、あの街の事を思い出してしまった。

ロンドンの地下鉄、ノーザンラインで北に向かい、カムデンを過ぎて、ハムステッド・ヒースを越えたあたり。

地下鉄がトンネルから出て地上を走り始めるところに、ゴルダーズグリーンという駅があり、そこで約1年すごした事がある。

ゴルダーズグリーン駅からフィンチリーロードで西に向かい、商店街の中にある郵便局の3階に住んでいた。

東京に引っ越してから1年後の1991年、僕と嫁さんはロンドンに引っ越した。

といっても、仕事があるわけではなく、英語学校入学という名目で6ヶ月の学生ビザを取って、あとは現地で仕事が見つかればと考えた。

結果的には、そんな運良くロンドンで仕事が出来るわけもなく、その年のハロウィンに東京に戻る事になるのだけれど、、、。

唯一出来た事と言えば、向こうで知り合った沢山の友達といっしょに、ゴルダーズグリーンの丘の上にある教会で僕たちの結婚式が出来た事である。

なにせ、英語学校の女性校長先生のご主人さんがその教会の神父さんだったので、20ポンド(当時レートで約5千円位)の寄付で、教会を会場として、神父さんの司会つきで借りることが出来た。

唯一高かったのは、ブレントクロスのショッピングセンターでレンタルしたウエディング・ドレスで、新郎のタキシードなんて、カムデン・タウンで50ポンドの古着を買ってすました。

電化製品やいろんなものに慣れている日本の暮らしと違って、何も無かったけれど、なんとなく豊かに暮らせた1年だった。

日本から村上春樹さんの全集版、「ノルウエィの森」1冊だけを持っていったので、今日のような低い空を窓から眺めながら、何度も読み返した。

部屋にはちっちゃなラジカセ1台しか無かったが、そこから聴こえてくる曲たちは、今でも憶えている。

当時、良く聴いていた曲は、「Tears For Fears」の「Sowing The Seeds of Love」

雨に煙るあの街に何故か良く似合っていた。

あれからもう16年も過ぎてしまったけど、あの街は、あの頃と何も変わっていないだろうって気がする。

だって、古びた長屋が取り壊され、どんなビルが建つのかと見ていると、以前とそっくりの長屋が建つっていう街だから。

この空の向こうにあるゴルダーズグリーンを思い出しながら、木々に降り注ぐ雨を眺める日曜日の朝。

2007/02/18