夏の青い空を見ると思い出す風景がある。
もう10年位前の事なのだけれども、ちょうど、夏の暑い季節に、イベント関係の仕事で北京で1週間位過ごした事がある。
北京市の市街地のどこか西のほうにあるホテルに滞在して、紫禁城のすぐ近くにある市立博物館での仕事だった。
最初のうちこそ、送迎用のマイクロバスに乗って行き来したが、慣れてくると、市街地をぶらぶら歩いてホテルと博物館を往復した。
街のにおいや、舗装していない道路の感触が、幼い頃の日本を思い出させた。
夕暮れ時に、商店街の店先にテーブルを出して、家族で夕ご飯を食べてる家族。
きっと家の中にはクーラーなんてないんだろう、大人も子供も道端で涼みながら、語らいあっている。
やがて夕闇がせまってくると裸電球が灯り、日本の夏祭りを連想させる、喧騒に包まれる。
そして、とても新鮮だったのが、街で流れる音楽、TVでオンエアーされているミュージッククリップ、全てが聴いたことの無い曲だった。
(あたりまえだけど)
歌詞だって、何て歌っているか、一言もわからなかったけれども、心に染みる歌がいくつもあった。
結局、仕事の合間に北京市内のカセットテープを売っているショップをかたっぱしから巡って、目に付いたカセットを買った。
カセットの正規商品が1本100円位だったので、あれもこれも買っているうちに帰国する頃にはトランク満杯のカセットテープになってしまった。
香港、中国、台湾、韓国、日本のカセットが売られていたが、バラード系の曲は台湾ものがダントツに良かった。
そのなかで、特に気に入ったのは「蘇慧倫/ターシー・スー」の「就要愛了口馬/Is Love On The Way」だった。
帰国してからも、何枚もアルバムを買い続けたけれども、個人的にはこのアルバムが一番好きである。
いい曲が沢山あるなかでも、「沒有去過的地方」が特に好き。
DX7系のエレピの音と、生ギターを核にしたシンプルなバラードで、残念ながら歌詞の意味は全然わからないけれども、とてもしっとりとして良い曲である。
今でこそ韓流ブームだけれども、そのずっと昔、香港映画ブームの走りごろの時期である。
蘇慧倫はそののち、「Lemon Tree」をカバーしたりして、台湾ではアイドル歌手で、映画「宝島/トレジャーアイランド」にも出演している。
日本でいったら、河合奈保子や中山美保といったあたりかもしれない。
ひさしぶりにCDを聴きながら、ああやっぱりいいなあと感じてしまう。
歌声は、ちょっと表現は出来ないけれども、日本にはいない、素直に伸びる、一度聴いたら忘れられない声である。
2006/8/13
沒有去過的地方
13
8月